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2015年藤野ぐるっと陶器市レポート

〜陶器市・全18会場を巡ってみた〜

 

まずは初日。例年だと、初日のほうがお客さんが多いそうですが、今年は曇りのち雨という浮かない天気予報のためか、全体的にスローなスタートになりました(しかし結局、夕方までは、降らずに持ちこたえてくれました)。

 

朝いちばん、空を見上げて“降りませんように”と祈りながら、まず、佐野川方面へ向かいました。

ライター 平川まんぼう

gallery studio fujino

 すべての会場が駅より南側に集中する中、唯一、北側地域での開催となった「gallery studio fujino」。

 

駐車場に車を停め、教えてもらったとおりに河原を降りていくと、川の細い部分に渡された木の橋がありました。これは、studio fujinoでイベントをやる際にだけ登場する橋なのだそう。なんだか冒険が始まったような心持ちでこわごわ渡ると、笹の葉の絨毯が美しい竹林があり、設置されていたいくつかのテントでは、Barの開店準備が行なわれていました。

 

石段をジグザグに上っていき、すこうし息が切れる頃、石垣の向こうに大きな古民家が現れます。建物右手側では、ごはん屋さんが準備中。入口付近や縁側には、出店者の陶器作品に新緑が美しい枝やきりっとした表情の花が飾られ、訪れた人々を出迎えてくれます。入口の正面に立つと、作品の数々と、行き交うお客さんの姿とが、まるでゆっくり動く絵画のように切り取られて見えました。

 

「7の展示」と題した入口の正方形のテーブルには、studio fujinoに作品を置いている7人の作家さんの小作品がディスプレイされていました。木工品、土器、白磁、ガラス、陶器など、異なる素材と技法でつくられた作品なのに、どこか統一感を感じるのが不思議です。古民家が醸し出す落ち着いた雰囲気が、そのまま会場全体の空気を形作っているように感じました。

 

古民家の中に入れば、人の手で創られた心地よさ、外に出れば新緑の山々と川のせせらぎの心地よさ。1箇所だけ離れた会場ながら、朝から大勢のお客さんがきていたことが納得できる、とても居心地のいい洗練された空間でした。

 

(余談ですが、秘密の(?)小部屋に気づいた人は、果たしてどれぐらいいるのでしょうか…?)

Sage café(セージ カフェ)

静かな静かな住宅街を進み、本当にあるの…? と不安になった頃に、道案内の看板が現れます。そして、角を曲がった突き当たりに現れるのが、青色の外観が目を引く「セージカフェ」です。倉庫跡を地元在住の空間アーティストがリノベーションした温もりのある空間と、オーナーの好きなものがいっぱいに詰まった店内は、隠れ家にやってきたようなワクワク感と、どこかホッとさせてくれる懐かしさが感じられます。

 

オープンキッチンからは、ケーキを焼いている甘い香りとコーヒーの香ばしい香りが漂っていました。近づいてみると、コーヒーを淹れているわけではなく、コーヒータルトが焼き上がったところでした。オーガニックのコーヒーを抽出して、贅沢に使用したというセージカフェとっておきのスイーツです。

 

お昼前ということもあり、店内はまだまだ静か。残念ながらランチを拝見することはできませんでしたが、セージカフェといえば、地元ではお馴染み、やはり点心ですね。陶器市期間中も、絶品の点心セットが楽しめたそうです。

 

店内では、陶器の展示販売もしていました。オーナーが別のイベントに出店した際に知り合ったという陶芸家のご夫婦の作品で、佐渡島の土を使っているのが特徴です。普段使いにぴったりな器から、小さな小さな陶人形まで、どこか和やかな佇まいの作品たちでした。

 

「いやぁ、迷いました〜」と言いながら、男の人が入ってきました。やはり、初めてくる人は迷うみたいです(笑)。まだお昼ごはんには早い時間でした。「近くの会場を見てくるので、ランチの予約をしておいていいですか?」。わざわざ予約をするために早めに探しにこられたようです。ここまで辿り着いた人だけが楽しめる、特別なごはんと空間だなと、そう思いました。

カフェレストラン Shu

 オーナーのshuさんが、ひっきりなしにやってくる車の誘導係をやりながら、いつもの爽やかな笑顔で出迎えてくれました。ああ、それだけで、なんだか嬉しくなっちゃう。

 

駐車場を入ってすぐ、右手側のテラスには、4名の作家さんの作品が並んでいました。練り込みという技法で模様を描いた器や細長くした陶土をグルグルと巻くようにしてつくられた器、ユーモアたっぷりの聖歌隊の陶人形など、なかなかの個性派揃いです。いつもなら落ち着いた印象のあるテラスが、とてもカラフルに彩られていました。

 

印象的だったのは、陶芸家・林正人さんが、焼かない陶器をつくれないだろうかと思い立ち完成させたというゴリラの頭蓋骨をかたどった陶器作品です。パッと見ただけでは、ほかの作品となんら違いはありません。ところが、焼いていないので、水に濡れると簡単に泥に戻ってしまうのだそうです。これは“自然にもっとも近い陶器”と言えるのかもしれません!

 

テラスに面したギャラリースペースでは、陶芸家・鷹尾葉子さんとガラス作家・高橋禎彦さんの作品が展示されていました。どちらの作家さんも、知る人ぞ知る人気の作家さんですね。人気だろうとは思っていましたが、なんと、初日の午前中だけで、すでに作品の半分ほどが売れてしまったとのこと。陶器市ならではのお求めやすい価格設定ということもあり、ファンの方々は、初日の朝いちばんにやってきて、気に入った作品を購入していくのだそうです。

 

レストランも徐々に混み合い始めました。イベント特別メニューは、目の前の畑で穫れた無農薬野菜や旬の筍を使ったShu自慢のお惣菜、焼き魚に煮玉子などが並んだ、体が喜ぶプレートランチです。テラス席は鮮やかな新緑に囲まれ、木漏れ日がキラキラと光っていました。自然の恵みを、外側からも、内側からもいただいているような贅沢なランチタイムを、多くの人が満喫していました。

工房 艸

カフェレストランShuから歩いて数分のところにあるのが「工房 艸(そう)」。メインストリートから道標に従って小道を入ると、サッと視界が開け、中山間地の藤野にしては珍しい平地が広がります。その中をまっすぐに伸びる砂利道をてくてくてくと進んだ先に、小さいけれども、パッキリとした存在感のあるお家が見えてきます。

 

こちらの会場は、染色作家・木下純子さんのご自宅兼工房です。

 

ご本人自ら“小屋”と呼ぶほど小さい、木の温もりが感じられるお家。そして、シンプルながらセンスの良いインテリア。まずは、室内とひと続きのウッドデッキから、靴を脱いで中に入ります。ウッドデッキの四方を、淡い色合いの陶器がぐるりと囲み、その中央にペタンと座って、作品を見たり、お話を楽しんでいる方々もいました。

 

室内は、とにかくおしゃれで、まるでもともとギャラリーなんじゃないかと思えてくるほどです。柿渋染めのバッグや小物、無機質な模様が目を引く陶器、そして柔らかいフォルムの動物のオブジェなど、それぞれの個性がこの空間によって、しっかりとひとつの世界を構築していました。

 

この一帯は、家々が密集しておらず、ゆったりと点在しています。その広々とした空間を活かすように、外にはテントが設置され、いくつかのお店と、食事をしたりお茶をするスペースが設けられていました。だしから作り、具材の野菜は自家製というこだわりのうどんは、今年も大好評。昨年食べて気に入り、“今年も絶対に食べたい!”とわざわざお昼時に足を運んだご家族もいたそうです。

 

さらにウッドデッキの正面では、M.willというシンガーソングライターのミニライブも開催されました。走り回っていた子どもたちが足を止め、歌声に聞き入っていたのが印象的でした。

静風舎 

木々に覆われ、ひんやりと涼しい森の中を通り抜けると、太陽の光とともに、建物がいくつか現れます。こんなところに、こんなにすてきな家たちが、と初めてきた人は驚くことでしょう。

 

名倉地区の3会場はすべて隣接しています。どこから伺おうかと悩みつつ、まずは坂を降りて左手にある、静風舎へ向かいました。

 

白磁作家の副島泰嗣さん、微美子さんの工房「静風舎」。ウッドデッキから外階段を登るとそのまま2階のテラスに繋がっています。そこには、白磁の器や切子ガラスなどが展示されていました。陶器市ならではの割引価格ということで、普段ならなかなか手が出ない高価な白磁の器が、ぐっと身近に感じられます。

 

テラスは、ギャラリーへの入口にもなっています。中に入ると、壷や大皿から、普段使いのできる器まで、たくさんの作品が、凛とした姿で佇んでいました。じっと眺めているうちに、白磁の隙のない美しさに思わず見とれ、引き込まれていきました。

 

そして毎年、ゲスト的にほかのアーティストの作品展示があるのも楽しみのひとつです。今年は、ねこ作家の橋本薫さん。

 

上品な佇まいの器を、水彩スケッチや版画から猫の目がひそかに見つめていました。傍らには、グラスフォレストがつくる伝統工芸品「蒲田切子」も並んでいます。猫と白磁と切子ガラスが織りなした、みごとなコラボレーションでした。

 

建物の入口では、息子さんの副島舎人さんがつくるアクセサリーや小物の販売も行なわれていました。隣では、友人だという相模湖の有機農家「ゆい農園」の朝採れ野菜の販売も。繊細なアクセサリーと有機野菜。こちらでも、なんとも藤野らしい、すてきなコラボレーションが、始まっていました。

 

FOREST MARKET 

静風舎の隣のお宅は「F’s gallery」ですが、「FOREST MARKET」は、そのお宅の広々とした芝生の庭を使った会場です。陶器を中心に、ガラスや藍染め製品、木工品など、バラエティ豊かなクラフト作品が広い敷地いっぱいに並んでいました。敷地の奥、お店の向かい側にはいくつかの屋台も出現。その賑わいは、名前のとおり“マーケット”を連想させました。

 

売られていたのは、普段の暮らしで使う場面が想像できるものばかり。時間が許せば、3周ぐらいは廻ってじっくり吟味したい欲求に駆られましたが、どうやらそれはほかのお客さんも同じだったよう。滞在時間が長い人が多く、特に地元在住の方々がゆっくり過ごしていたように見えました。3つも飲食店が出ている会場は珍しく、食事を楽しみに訪れた人も多かったのかもしれません。

 

広い敷地を活かして、会場の入口付近ではミニライブも始まりました。このミニライブも、フォレスト・マーケットではもはや恒例です。藤野のシンガー、やっちゃんのジャジーな歌声が響き渡りました。

 

お店を見ていた小学生の男の子が、突然「僕のお茶碗、これがいい」と、少し大きめのお茶碗を両手で持ってお母さんにおねだりし始めました。たまたまなのか、値段もそこそこします(笑)。お母さんは困ったように笑って「ちゃんと大事に使うのよ」と言いながら買っていかれました。小さい頃から、自分の使う器を自分で選ぶというのはすてきだなぁ。まだ小さかった彼の、ものを大事に使う心を養ってくれるにちがいないと思いました。

 

暮らしに取り入れたい道具があり、おいしいごはんがあり、お酒があり、音楽があり、芝生がある。ないのは日陰ぐらいのものですが、それもまた、すぐ目の前の「F’s gallery」に駆け込めばあるのですから、もはや“ないものはない”会場だったのかも、しれません。

 

F’ s gallery

「F’s gallery」は、個人宅を丸ごと開放したギャラリースペース。まずはフォレスト・マーケットに面した入口から、お家の中に入ります。1階には、ガラス作家さんの作品や書作品が展示。ソファやイスは自由に座れるので、陽射しを避け、ゆったりと寛ぎながら作品を見ている方もいらっしゃいます。

 

続いて、2階に上がってみましょう。階段を登り、リビングの上部にかかる吊り廊下を渡ると、1部屋が丸ごとギャラリーになっていました。こちらは、作家の沢井愛子さんの作品と、愛子さんのセレクトした作家の小物を展示販売しているブースです。

 

じつはこのお宅は、年に何度かオープンハウスのイベントを開催しています。しかし、2階の部屋を公開したのは今回が初めて。屋根の勾配に合わせて斜めになった天井と、壁一面の窓、その向こうに見えるあざやかな新緑が、山小屋の中にいるような心持ちにさせました。

 

そして「F’s gallery」といえば、リビングを突っ切った反対側にある、ひろ〜いウッドテラスがサイコーです。テラスに出ると目の前には鬱蒼と生い茂る広葉樹の森が広がっています。

 

陽射しは遮られ、風はそよそよと吹き抜け、暑さは微塵も感じられません。まるで避暑地にきたような贅沢なロケーションに、お客さんの足も自然と止まります。テラスに腰掛け、足を投げ出して森を眺めている人、用意されたテーブルで食事やお茶を楽しむ人。静けさを損なわないよう、会話の声もみなさんとても穏やかです。

 

こうした時間が楽しめるのも、里山の陶器市だからこそ。なぜ多くの陶芸家が藤野地域に移り住むのか、こんな時間の流れ方にも、その理由のひとつがあるような気がしてなりませんでした。

神奈川県立藤野芸術の家

日連地区から牧野地区に差し掛かったあたり。道を曲がり、坂道を下っていくと大きな建物が現れます。ここは、藤野地域最大の公共施設「神奈川県立藤野芸術の家」です。ホールや音楽スタジオ、会議室、アート体験ができる工房などの各種アート施設とレストラン、宿泊棟やテントサイトなどの宿泊施設が揃っています。陶器市期間中、宿泊なさった方もいたかもしれません。

 

入口の右横に、陶器市用に大きなテントがいくつか設営されていました。手前のテントでは館内のレストランが軽食と飲み物の販売を、その隣では、ガラスのキーホルダーやアクセサリー、コップや写真立てなど、工房で製作した芸術の家オリジナル商品が販売されていました。

 

さらに隣では、数名の陶芸家の方が出店しています。数年前から、ご縁のある若手陶芸家の方に参加してもらうようになったのだそう。「今や若手でもないんですけどね(笑)」と作家さんたち。シンプルで使いやすい陶器や磁器がたくさん並んでいました。

 

館内に入ってまっすぐ進むと、音のプロムナードという、ちょっとユニークな廊下があります。歩くと、場所によってさまざまな音が鳴るのです。ここでは、陶器市インフォメーションとして全会場が写真付きのパネルで紹介されていました。

 

会場数が多いため、すべてを廻るのは難しい陶器市。どこに行くかは、よくよく考えなくてはなりません。芸術の家は、全会場の中央付近に位置しています。カランカラン、キンコン、ポーンという音を聴きながら、紹介パネルを見てどの会場を廻ろうかと思案するのも、また楽しいひとときです。

ふじのアートヴィレッジ & 野山の食堂

芸術の家の真上、県道沿いにあるのが「ふじのアートヴィレッジ&野山の食堂」です。9つのコンテナギャラリーを常設しているアートヴィレッジ、そして各種イベントを積極的に開催している野山の食堂は、日頃から藤野のアート交流拠点として地域住民に愛されている場所です。

 

各コンテナギャラリーの店主は、陶芸家にガラス作家、彫金作家に人形作家、フェアトレードショップ経営者など、じつに個性豊かな面々です。元は同じコンテナだったはずなのに、店主によってこうも雰囲気が変わってしまうものかと、ひとつひとつ覗いて見るだけでなんだかワクワクしてきました。

 

入居者のひとり、陶芸家の角田侑右弐さんは、ドリップコーヒーを淹れ、ご自分のつくった器で提供する小さなコーヒー屋さんをコンテナ前でオープン。購入するだけでなく、こうして器を楽しめるというのは、なんだかいいアイデアだなぁと思いました。

 

普段は、野山の食堂の平日ランチを担当している「笑花食堂」は、入口でマクロビオティックの軽食やスイーツを販売。同じテントでたこ焼き屋さんもやっていたので、マクロビたこ焼きかと思いきや、普通のたこ焼きだったのもちょっと面白かったです(笑)。

 

同じ敷地内にある野山の食堂で提供されていたのは「陶平ピザ」のピザランチです。陶芸家・中村藤平さんが、粘土をピザ生地に持ち替えてつくった手作りピッツァで、ある意味で“もっとも陶器市らしい食事”と言えたかもしれません(笑)。すでに午後もだいぶ過ぎていましたが、店内はテラス席も含めて満席。その人気振りが伺えました。

 

アートヴィレッジの出店者は、コンテナギャラリーを利用している作家さんや、関係者と深い縁のある方々ばかり。交流拠点の役割を担う日頃の絆が確かに感じられる、とてもアットホームな会場でした。

10 藤野倶楽部--百笑の台所

体に優しい上質な韓国料理と、窓から見渡せる山々の絶景。「百笑の台所」は、その絶好のロケーションと料理のおいしさから、地域内外で人気を集める農家レストランです。

 

昨年の陶器市は大変な混雑だったと聞いていたので、ピークを外して夕刻に伺うと、すでにお客さんはまばらになっていました。「天気のせいもあって、今年はそこまで忙しくなかったかな」と店員さん。じっくりと、店内を拝見させていただくことにしました。

 

奥に細長い店内の中央には、細長いガラスのショーケースが置かれています。ここには、藤野在住の陶芸家らの作品が丁寧に展示されていました。美術館にきたような気もちで、ひとつひとつをじっくり見ていきます。

 

なぜか店舗用冷蔵ショーケースに展示された陶器もありました。なぜ? という疑問は拭えませんでしたが(笑)、これはこれでかわいらしくてすてきです。

 

あんまり作品を見すぎてちょっと疲れたなと思ったら、窓の外に目をやれば大丈夫。全面ガラス張りの向こう側には、新緑の山々が連なった、それはみごとな絶景が楽しめるのです。

 

眺望の良い場所はたくさんあります。けれども、百笑の台所から見える風景がひときわ魅力的なのは、山が近く、目に映る範囲に1本の電線も見えないからではないでしょうか。窓からの景色を見ている限り、ここが県道沿いの住宅街にあるお店だとは、信じられません。

 

ちなみに翌日は、途中で食材がなくなり、13時台に一旦オーダーストップするほどの大盛況だったそうです。やっぱりみなさん、イベントにきたら、おいしいごはんは外しませんね!

龍夢万華鏡工房の一風変わった陶器市

日目。昨日とは打って変わって朝から快晴! かなり暑くなりそうな予感を胸に、まずは藤野の秘境と呼ばれる綱子地区へ向かいました。

 

龍夢万華鏡工房の一風変わった陶器市

 

「一風変わった陶器市」と自称しているということは、さぞかし曲者ぞろいなのだろうと思いながら出かけたのは、藤野の秘境、綱子地区。

 

こちらにお住まいの万華鏡作家・傍嶋飛龍さんのご自宅兼工房は、日頃からたくさんの友人知人が訪れるとってもオープンな家。まずはたくさんのお店が出店している庭を覗きます。朝いちばんの訪問でしたが、誰かがジャンベを叩き出すと、途端にセッションが始まりました。

 

ぴったりの髭を付け足して描いてくれる似顔絵屋さん、ミックスベジタブルをモチーフにしたアクセサリー、会場のあちこちに隠れている帽子のオブジェ、謎の煩悩狩り人形…。こうして並べただけでも、一風変わっていることがよくわかります(笑)。

 

誰でも挑戦できる楽焼きのワークショップも開催されていました。ワークショップが用意されていた会場はじつはほかにありません。きっとたくさんの人が自分で作った器を大事に持ち帰ったのではないでしょうか。

 

続いて建物内に入ります。1階は、傍嶋さんの作品展示スペースです。陶製の万華鏡やテーブルを埋め尽くす謎の小人がずらり。キラキラしながら移り変わっていく万華鏡の世界に、たくさんの人が釘付けになっていました。2階に上がるとカフェスペースがあり、そのさらに奥の部屋は、クラフト集団Pranariansの展示ブースでした。木や金属を使った万華鏡や革張りのハンティングチェア、ネパール大地震のチャリティ用写真立てなど、コラボレーションするからこそ生まれた、さまざまな素材を組み合わせた作品が並んでいました。

 

それにしても、開店準備がとってもスロー(笑)。綱子のゆる〜い空気感は朝から健在でした。

陶釉舎

篠原地区の外れ、道路から見上げた場所にある、陶釉舎。緑に囲まれた広いテラスの一角と、建物とテラスの間の通路状のスペースに、たくさんの陶芸家の方が出店していました。

 

場所が通路状だったため、入口から入って、前の人について見ていくことになります。ところが、どの作家さんも自分のブースの脇に立ち、いろいろとお話をされているので、みなさんつい足が止まってしまい、通路はいつも大渋滞でした。そのためか、心なしか購入率も高かったように感じます。作家さんの人となりや作品にまつわるエトセトラも、お客さんにとっては、購入する上での大切な要素なのだと、改めて思いました。

 

というわけで、とにかく混み合っているので、後戻りが難しいのです。テラス側のお店も見たら、もう1度入口に戻って2周目です。カラフルな陶器から、染め付けの器、和の気配漂う器まで、テイストがバラバラなのも見ていてなんだか楽しくなりました。

 

次に、テラスの奥にあるギャラリースペースに入りました。こちらは陶釉舎の碓井直弘さんの磁器展「マンゴーの見る夢」や灰釉陶器の展示、奥様の吹田千明さんの「五感で感じるオブジェ陶展」が開催されていました。画家の佐藤奈奈さんの作品も展示され、落ち着いた中にもビビットで原始的な色彩を感じます。土から始まり、色を通過して、柔らかさを帯び、夢に終わる。そんな形なきものの見えざる動きが表現されているかのようでした。

 

テラスではイスに座ってゆっくり寛ぐ人たちの姿がありました。陽射しの強さを思わず忘れてしまいそうな心地いい風が、その隙間を縫うように、吹いていきました。

アカセ・クレイワーク・スタジオ

いくつかある秘境的会場の中でも、秘境中の秘境といえば間違いなく牧馬地区にある「アカセ・クレイワーク・スタジオ」でしょう。なにしろ、車が入れません。会場までは、約1.5kmの山道を歩いていかなければならないのです。

 

県道で車を降りると、誘導係の方が地図を渡してくれます。「遠いけど時間は大丈夫ですか?」知らずにきた人が途中で後悔しないよう、確認です(笑)。歩き始めると、そこはすっかり森の中です。民家はほとんどなく、川の流れる音と葉っぱが風でこすれる音、鳥の声だけが響きます。

 

途中から舗装された道を外れ、小川沿いにしばらく進みます。最後の急坂を登ると、ようやく会場に到着です。散策気分でゆっくり歩いたら、片道30分ほどかかりました。

 

今年は何人かの陶芸家の方々に加え、オーナー・赤瀬圭子さんの後輩にあたる、武蔵野美術大学陶磁専攻4年生のみなさんに出店をお願いしました。「ここは車が入れず、搬入するだけでも大変なので、なるべく体力のある若い方がいいかと思って(笑)」と赤瀬さん。初々しさがありつつも、柔らかな風合いの作品が多いのが印象的でした。

 

こちらの会場のごはんを担当したのは、イタリアン・レストラン「トラットリア・メルカート」です。旧市内に店舗があり、おいしいと評判のレストランがわざわざ出張出店してくれたそうです。こんなに山奥で、こんなにおしゃれなイタリアンが食べられるなんて。山の中にいながら、ほんの少し都会的な気分を味わいました。

 

帰り道も、もちろん片道30分。入れ違いで登ってきた人に「あと少しですよ!」と声をかけると「あー遠かったぁ!」と笑顔が返ってきました。遠くとも豊かな自然が感じられるこの道のりは、アカセ・クレイワーク・スタジオを訪れた人にとって、なによりも心に残る時間となるような気がします。

○△gallery 

篠原地区に昨年オープンした「○△ gallery」。陶芸家・野上薫さんのご自宅に併設されたギャラリーで、大工のご主人がつくったという、和の趣を大切にした木の建物です。

 

ギャラリー前の広場では、野上さんをはじめ、5名の陶芸家の方々が出店されていました。食事の盛りつけが楽しくなりそうな、シンプルで温かみのある作品が多く、女性のお客さんが多かったように思います。人気の作家さんもいらっしゃって、入れ替わり立ち替わり、常に人で賑わっていました。伺ったのは2日目の午後ということで、残っている作品もだいぶ少なくなっていたようです。

 

建物を回り込むように、ギャラリーの入口に向かいました。引き戸を開けると、広い土間と白い壁、木の梁やアンティーク調の展示台が和洋折衷の洗練された空間をつくり上げていました。土間に隣接して茶室もあり、ギャラリーとしても、ちょっとしたイベント会場としても、利用することができそうです。天井からは和紙のモビールがぶら下がっていました。

 

○△galleryでは、年に数回、企画展を開催しています。5月の企画展は「豆器展」。7名の陶芸家が参加したグループ展で、手のひらに乗るサイズの小さな器ばかりが展示されていました。

 

ぐい飲み、小皿、灰皿、ティーカップ、ティーポット…。小さな器しかないと、ただそれだけで、なんだか世界が違って見えます。まるで自分がガリバーのように、大きくなった気がするのです。

 

見慣れない大きさの器たちによって起こされた錯覚を受け入れ、自分にとっての当たり前を取り払ってみると、これまで感じたことのない面白さやかわいらしさが見つかります。なんというか、新たな価値が発見できてしまうのです。

篠原の里

旧篠原小学校の跡地を活用しようと地域住民の手で運営されている地域交流拠点「篠原の里」。日頃から、地域の方々の憩いの場として、さまざまなイベントの会場として、たくさんの人が利用しています。

 

校舎の入口前では、木で作られたアクセサリーや小物、篠原地区で採取されたという貴重な日本ミツバチの蜂蜜などが売られていました。

 

入口を入ると、子ども服のフリーマーケットが開かれています。これは子育てサロン「わはは」のお母さんたちによる「わははのお店」。すぐに成長してしまう子供の洋服が気軽に手に入るのはありがたいものですね。小さな子どもたちは校庭や廊下を走り回り、お母さんたちは楽しくおしゃべりをしていました。

 

1階のカフェスペースでは、篠原地区と長年おつきあいのある日本大学・糸長研究室の学生が、石窯でピザを焼いて提供していました。真夏のような暑さの中、石窯に薪をくべ、汗だくで焼いてくれています。

 

メニューは定番のマルゲリータに、子どもに人気のツナコーン、そしてこだわりの日大ベーコンを利用したじゃがマヨという3種類。石窯を覗かせてもらうと、瞬く間にプクプクと生地が膨らみ、チーズがとろけていきました。

 

7ヶ所の会場が集中している篠原地区で、おそらくいちばんゆっくり休むことができたのが篠原の里ではないかと思います。子どもたちが走り回れる校庭があるのも、嬉しいポイント。こういった場所があると、お子さん連れでもストレスなく陶器市を楽しめるなぁと思いました。

髙橋安子アトリエ

篠原の里から高台に向かって歩きます。見晴らしの良い丘の上にあるのが陶人形作家・高橋安子さんのアトリエです。テラスでは天然酵母スロウパンの焼きたてパンの販売、そして旦那様で造形作家の高橋政行さんがコーヒー屋さんをやっていました。

 

まずは室内へ。リビングルームを囲むように置かれているのが、かわいらしい陶人形や陶のお家です。見ていると、自然と頬が緩んでくる優しい表情をしています。今にもウサギが喋り出して、メルヘンな童話が始まりそう。楽器をもった人形は演奏を始めるかもしれないし、ピエロは踊り出しそうだし、木は歩き出しそうです。そんなふうに、いつのまにか、想像力がムクムクとかき立てられていきました。

 

高橋安子さんが自らお茶を出してくださり、たまたま居合わせた知人やはじめてお会いした方と、中央のテーブルを囲みました。外の景色は美しく、部屋の中はまるで童話の世界。気づけば、だいぶ長い時間が経っていたようです。

 

「外の花壇のところにも飾ってあるから見てね」

 

そう言われて建物の脇の花壇を見ると、鬱蒼と茂った草花の中に、王様やお姫様、音楽隊やうさぎ、猫と話す女性などがイキイキとした様子で飾られていました。自然に溶け込んで、やはりこちらも、今にも動き出しそうです。いわゆる普通の人形だったら、ここまで溶け込まないかもしれません。土から生まれた陶人形だからこそ、こうして輝くんだろうと、そう思いました。

 

その後、テラスでコーヒーを飲みながら、またおしゃべりを続けてしまいました。いやはや、ここはいつきても、風が吹き抜けて、とても気もちの良い場所。ついつい、長居をしてしまいます。

妙心窯

キムチがおいしくて有名な梨泰院の駐車場が「妙心窯」の会場です。以前は、真向かいにある伊藤泰紀さんのお宅が会場でしたが、現在そちらの古民家はムササビが家主となったようで、伊藤さんいわく「人間は追い出されてしまった」のだそうです(笑)。

 

すでに2日目の午後もだいぶ過ぎた時間だったため、商品はかなり減っていて、なかには完売しているブースもありました。テーブルに置かれた完売のお知らせには「弟子の店はまだ作品があるのでよろしくお願いします」とのメッセージが。読んでいたら、なんだかほっこり幸せな気分になりました。

 

妙心窯は、木の器屋さんの出店が多いのが特徴といえるかもしれません。完売したブースも、木工作家・須田二郎さんのお店でした。建物や家具もそうですが、木というのは、心を落ち着かせる不思議な力をもっています。土から生まれた陶器も魅力的ですが、木の器がもつ軽さや温もりも捨て難い。お弟子さんのお店も最後までとても賑わっていらっしゃいました。

 

伊藤さんのブースを訪れると、手元にたくさんの草花がありました。何かと思っていたら、食べれる野草だと言って皮をむいて食べさせてくれました。お隣のブースの陶芸家さんやお客さんも混じって、にわかに盛り上がり、束の間、自然の恵みを楽しみました。

 

伊藤さんはご自身の作品のほか、お勤めの福祉施設の利用者さんが作った作品も販売していました。新しい家主だというムササビさんの写真も額に入れて展示してあります。あっちにもこっちにもお話のタネがいっぱいで、ついいろいろと話し込みました。

 

Keramos 7

いよいよ最後の会場に辿り着きました。梨泰院の下にある「Keramos 7」です。その名のとおり、7つのブースが出店しています。川のせせらぎに沿って坂を下り、少し広くなったところにお店がぐるりと並んでいました。

 

レザー&ウッドクラフツのお店は、小物や文房具、アクセサリーまで商品数が多いのが楽しい。かわいらしい絵付けの器や陶のアクセサリーは大人気で完売間近です。淡い青色がきれいな器は、藤野在住の陶芸家・竹嶋玲さんのもの。どんな料理にも合わせやすく、使いやすいと好評です。シャープなシルエットの金属道具の数々は、道具と銘打っているだけあって、使い道がすぐに頭に浮かびました。傍らにはお抹茶がいただける野点喫茶もあります。

 

お店はここで終わりかと思いきや、奥のほうに下に降りる階段がありました。川に近づくように降りていくと、手づくりスイーツのお店と、陶芸家・玉置りささんの作品が並んでいました。玉置さんの作品の中でアイデア賞だと感心したのが、蚊取り線香用の器。こんなすてきな蚊取り線香があったら、蚊がちょっとぐらい飛び交っていても夏の間が楽しく過ごせそうです。

 

また、こちらのごはん屋さんはネパールカレー「カマルの台所」でした。西八王子にあるサクンタラというお店の方が出張していたそうですが、直前に起きたネパール大地震を受けて、お店の前には募金箱が設置されました。現地にいるご家族やご友人の話も聞かせていただき、ただニュースを見ていたとき以上にリアルに“私たちにできること”を考えさせられました。

 

「Keramos 7」は、ごはん屋さん以外はゆっくり座れるところもないし、そこまで広さもあるわけではないのですが、なぜかいくらでも滞在できてしまう不思議な空間でした。この2日間をじんわりと噛み締めながら、日が傾いた頃、ようやく帰路につきました。

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